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最高裁判所第三小法廷 昭和53年(オ)528号 判決

上告人

西田千鶴子

右訴訟代理人

植松繁一

被上告人

長田せん

右訴訟代理人

松井星次

平栗勲

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人植松繁一の上告理由第一点について

原審の適法に確定したところによると、(一) 被上告人は、本件建物を新築してその所有権を取得し、訴外炭本かずとの合意により同女の名義を借用して所有権保存登記を経由していたが、その後炭本に対し本件建物につき被上告人が所有権を有することの確認及び右所有権保存登記の抹消登記手続を求める訴訟(以下「前訴」という。)を提起し、昭和四四年四月六日被上告人勝訴の確定判決を得た、(二) 上告人は、前訴の口頭弁論終結後である昭和四五年八月二六日炭本から本件建物を買い受け、同年九月一八日所有権移転登記を経由したが、右買受け当時炭本が無権利者であることにつき善意であつたものということはできない、というのである。そうすると、上告人は民訴法二〇一条一項所定の口頭弁論終結後の承継人にあたり、これに前訴の判決の効力が及ぶものであることは明らかであり、所論引用の判例は、事案を異にし本件に適切でない。そして、被上告人において前訴の判決につき上告人に対する承継執行文の付与を受けて登記申請手続をしたとしても、本件建物につき上告人の経由した所有権移転登記及び炭本の経由した所有権保存登記が抹消されるにとどまり、登記簿上直接被上告人の所有名義が実現されるものではないのであるから、上告人に対して真正な登記名義の回復を原因とする所有権移転登記手続を請求する被上告人の本訴は、前訴の判決の存在によつて当然に訴えの利益を欠くこととなるものではない、と解するのが相当である。原判決に所論の違法はなく、論旨は採用することができない。

同第二点及び第三点について

所論の点に関する原審の認定判断は、原判決挙示の証拠関係に照らし、正当として是認することができ、その過程に所論の違法はない。論旨は、ひつきよう、独自の見解に基づき原判決を論難するか、又は原審の専権に属する証拠の取捨判断、事実の認定を非難するものにすぎず、採用することができない。

よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(江里口清雄 高辻正己 服部髙顯 環昌一 横井大三)

上告代理人植松繁一の上告理由

第一点 控訴裁判所は次に述べる通り法令違背の判決をしており、この法令違背が判決に影響を及ぼすこと明らかである。

本件は、被上告人は上告人に対し本件建物(原判決表示の建物。以下同じ)が被上告人の所有であるとして上告人に対して本件建物の所有権確認と所有権移転登記を請求し、上告人は被上告人に対し本件建物が上告人の所有であるとして被上告人に対し本件建物の明渡し及び賃料相当損害金の支払を請求しているものである。

本件建物については次の経過がある。

本件建物は、訴外炭本かずが訴外大平住宅株式会社に請負わせて昭和三六年建築し、炭本名義で昭和三六年一〇月一二日保存登記がなされている。

被上告人は炭本に対し所有権確認及び所有権保存登記抹消登記手続請求訴訟を提起して昭和四四年三月一四日被上告人勝訴判決(但し、欠席判決)言渡しがあり、この判決(以下前訴という)は同年四月六日確定している(但し何故か建物登記簿に予告登記はなされなかつた)。

他方、上告人は炭本から昭和四五年八月二六日本件建物を買受け、同年九月一八日所有権移転登記を了した。

かゝる経過を基礎とし、控訴裁判所は上告人が炭本から本件建物についての所有権移転登記を得ることにより、上告人は前訴の口頭弁論終結後の承継人として、前訴判決の既判力を受けるものと判旨した。

しかし、上告人は前訴判決の既判力を受ける民事訴訟法第二〇一条の承継人ではない。

即ち、例えば、売買当事者間の所有権移転登記手続請求の認容判決が確定した場合、売主から同一不動産を買い受けて右訴訟の口頭弁論終結後に所有権移転登記を受けた者は民事訴訟法第二〇一条の承継人に当らないのであり(最高裁判所昭和四一年六月二日判決)、又前訴が通謀虚偽表示による無効を原因とするものであつても同じである(最高裁判所昭和四八年六月二一日判決。なお、この判例は、前訴判決以降所有権移転登記をうけた者は前訴の登記義務者の義務を承継しないといいながら、前訴判決以降に不動産を取得した者の善意を問題としているがその理由は明確でなく、この判旨は「被上告人は訴外人の上告人広川良平に対する本件土地所有権移転登記義務を承継するものではない」という点にある。)。

かように上告人は炭本の地位を承継するものでないにもかゝわらず、これを承継するものとした控訴裁判所の判決は法令違背であり、それが判決に影響を及ぼすこと明らかである。

加えて、控訴裁判所は、上告人に被上告人に対する所有権移転登記手続を命じたが、控訴裁判所が上告人を民事訴訟法第二〇一条の承継人であるとするのであれば、被上告人は前訴判決の承継執行文で執行できることになるのであるから、控訴裁判所の所有権移転登記を命ずる主文は理由と全く矛盾するものである(判決が二個存在することになる)。

控訴裁判所が上告人に被上告人に対する移転登記手続をあらためて命ずるのであれば、本件は正しく対抗要件の問題として処理されなければならないものである。〈以下、省略〉

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